えいご日日平安

つれづれなるままに 日暮らし 硯に向かひて

きっとミスだ、間違いない!

特別定額給付金の申請も各地で始まり、オンライン申請に欠かせないマイナンバーカードの処理で、区市町村の役所の事務処理が混乱しているようです。加えて、申請書類の記入ミスも目立つようで、職員の負担もかなり多いと報道されていました。

 

今日は、そのような手間のかかるミスではなく、洋楽には欠かせない歌詞の対訳に見つけた、ちょっとしたミスを2つ紹介したいと思います。ただ、アーティストには共通点がたまたまあったのが興味深いです。また、両アーティストとも私は好きで、片方は私のハンドルネームになっています。

 

最初は、Meat Loafの"Bad Out Of Hell"に収録されている、Two Out Of Three Ain't Badです。いつもであれば、歌詞の最初を紹介しているのですが、肝心な箇所が少し後の方なので、その周辺から原詩と対訳を転記します。

 

And all I can do is keep on telling you

I want you

I need you

But there ain't no way I'm ever gonna love you

Now don't be sad

'Cause two out of three ain't bad

 

僕に出来ることはこう言い続けるだけ

"君が欲しいんだ、君が必要なんだ"とね

でも、もう君を愛することは出来ないよ

さあ、悲しまないで

3人の内の2人が出て行くのは悪いことじゃない

 


Meat Loaf - Two Out Of Three Ain't Bad (PCM Stereo)

 

私はレコードやCDを買っても、あまり対訳を見るほうではないので、しばらく何も考えずに聴いていました。ある日、たまたま対訳のページを開いて、あれっ、と思いました。最後のフレーズの、「3人の内2人が出て行くのは悪いことじゃない」のところです。3人って誰だろう、それまで歌詞の中に、「3人」に当たる人たちは出てこないのに、と思いました。自分で口ずさんでみて、歌ってみて分かりました。「3人の内2人」ではなく、「3つの内2つ」でした。つまり、"I want you, I need you."とは言っていますが、"I love you"の状態ではないと言っています。3つの愛の言葉を言えれば完璧なのでしょうが、それは出来ない、でもその内の2つは言ってあげるのだから、悲しまないで、と歌っています。

 

このMeat Loaf のアルバムは全曲、Jim Steinman が作っています。Jim Steinmanと言って、ピンと来ない方もいるかと思います。「スクールウォーズ」の主題歌「ヒーロー」の原曲を作った人です。この人は、歌詞が長いという特徴の他に、言葉遊びのようなものが多いので、和訳する人は大変だと思います。そういったこともあり、うっかり訳し間違えたのかな、と思います。

 

もう一曲は、そのJim Steinman自身のアルバム、"Bad For Good"に収録されています。元々は、Meat Loafのアルバムの為に書いたものですが、Meat Loafが喉を痛め、声が出ないというアクシデントから、Jim Steinman自ら発表しました。この中の"Dance in My Pants"が、もう一つの紹介したい曲です。このアルバム名の"Bad For Good"からしても、「善のための悪」という意味ではなくて、イディオム"for good" の「永遠に」という意味にかけ、「永遠に悪でいる」としているようです。 "Dance in My Pants" もおそらく"ants in one's pants (蟻がパンツの中にいる状況から→落ち着かない、ソワソワする)"にかけているのだと思います。この曲はダンスがテーマになっているので、”dance”と”ants"をかけたのでしょう、なかなかノリノリの一曲です。対訳もノリノリの文章で、その和訳自体には問題はないのですが、ミスが有りました。歌詞では、彼女が彼にダンスをするように誘っているのですが、彼氏の方は踊りたがりません。そして、曲後半部で2人の会話があるのですが、その彼女のセリフが男の言葉で訳されてしまっています。原詩と対訳をそのまま転記します。

 

Boy: I don't care what you say, and ain't nothing gonna get me out on that floor

Girl: Oh, baby, you know, there be some moves that you haven't seen yet

Boy: No way, Josie

Girl: Well, I gotta a new step for you.  Made it up all by myself.  I bet you never tried this before

Boy: Ahh, jeez!  Ahh, jeez!

Girl: Come on, now that you know how it's done.  It's only a matter of practice

Boy: Well, I could you show you some of that practice

Girl: Ha-ha-ha, now that you know how it's done.  It's only a matter of practice

 

おまえが何と言おうと、絶対に踊らないぜ

おまえの知らない動きも知っているけどね 

そうさ、ジョージー

いいステップを教えてやろう、俺が作ったのさ。こんなの初めて見るだろう。あとはおまえの練習次第さ。早く練習の成果を見たいものだね

 


Jim Steinman - Dance In My Pants

 

この動画の5分45秒くらいからの会話が上の部分です。

 

ラインマーカーのところは、彼女が話している言葉です。和訳をする人は、全ての収録曲を一々聴くことなく、原詩を訳すこともあるでしょうから、気づかなくても当然なのかもしれませんが、全て一人の言葉として訳しています 。

 

参考までに、私が訳すのなら、こういう感じでしょうか。最初の女性のセリフが、「ねぇ、ちょっと聞いて、あなたが見たこともないダンスがあるの」、次が「あのね、あなたに新しいステップを考えたの。全部私が考えたのよ。絶対にあなたも今までにやったことないはずだから」とするのではないかなと思います。60年代の日活映画のようなセリフで訳す私が言うことではないですが、英文を訳していて、ちょっと変だなと思わない感覚が、多少でも英語に関わってきた人間には違和感があります。

 

そう言えば、今回一つ思い出しことがあります。以前、中学生の女の子に英語を教える機会がありました。その女の子が自分を一人称で呼ぶ時に、「ボクは〜」と言うのです。最初は何かの聞き間違いだと思いました。が、何度も同じように言うので、今の女の子の中にはこのように自分を呼ぶ子もいるのかと、いささか驚いた経験があります。と書いていて思ったのは、対訳を書いた人の周りにも、自分のことを「俺」と呼び、語調の強い女性がいたのかもしれませんね。

 

この会話以降の部分で、女性が大笑いを繰り返すところがあります。前に紹介したエルビス・プレスリーの"Are you lonesome tonight"同様、思わず一緒に笑ってしまうような笑い方です。電車の中で聴くのは厳禁です、周りのみんなの注目を浴びてしまいますから。

 

Jim Steinmanに関しては、もう少し書きたいことがあるので、次回も取り上げたいと思います。